残業や休日出勤をしたにもかかわらず残業代等を支払う必要がない場合としては,以下の場合があります。
- (1) 農業(林業を除く),畜産・養蚕・水産業従事者
- (2) 管理監督者等
- (3) 監視・断続的業務従事者
- (4) みなし労働時間制がとられている場合
- (5) 給与に残業代が含まれる場合や残業代に代わる定額の手当が支払われている場合
もっとも,会社(使用者)がこれらに該当すると主張した場合でも,本当にこれらに該当し残業代を請求することができないのか,注意をする必要があります。
本当に残業代を請求できない?~その1 管理職の場合~
管理監督者等は一般的には管理職と呼ばれており,実際にも管理職には残業代が支給されないケースがよくみられます。
しかし,管理職=管理監督者等ではありません。
そもそも管理監督者等に対して残業代を支給する必要がないのは,労働基準法の労働時間や休日等に関する規定が適用されないからです(労働基準法41条2号)。
このように決められたのは,管理監督者等は,労働条件の決定などの労務管理について経営者と一体的な立場にあり,職務内容や勤務態様が時間管理になじまず,また賃金等で優遇されているので残業代等を支給しなくても保護に欠けないためです。
このため,このような実態がない場合,管理職であっても管理監督者等には該当しません。
管理監督者等に該当するかどうかは,
- ① 具体的な職務内容
- ② 責任と権限の程度
- ③ 出退勤等の管理を受けていたか
- ④ 管理監督者等にふさわしい待遇を受けていたか
という観点から,実態に即して判断されます。
裁判でも,実際の権限・職務内容が限定的であったこと,出退勤や勤務時間の管理を受けていたこと,管理職に見合う手当が支給されていないことなどを理由に,店長の地位にありながら管理監督者等に該当しないとされたものなど,「店長」「課長」「販売主任」「部長」「料理長」などの肩書があっても管理監督者等に該当しないとされたものがあります(東京地裁平成20年4月22日,東京地裁平成20年1月28日ほか)。
このように,残業代を支払う必要がない管理監督者等と管理職の範囲は必ずしも一致しませんので,残業代が支払われるべきなのに,実際には支払われていない管理職が相当いるように思われます。
なお,管理監督者等であっても,午後10時から午前5時までの深夜労働をした場合の25%以上の割増は受けられます(最高裁平成21年12月18日)。
本当に残業代を請求できない?~その2 残業代が給与に含まれる場合~
会社が残業代を支給しない理由として,残業代は給与に含まれていると主張したり,残業代に相当する手当を定額で支給していると主張したりする場合があります。
このように残業代を給与に含めることは無効ではありませんが,この場合は,通常の労働時間に対する賃金部分と時間外・深夜割増賃金にあたる部分が明確に区別できることが必要です(最高裁平成6年6月13日)。
このため,就業規則や給与明細等で基本給等の部分と残業代に相当する部分の金額が区別されていないような場合,会社(使用者)が単に残業代は給与に含まれていると主張しても,残業代等の支払いを請求できる可能性が高いといえます。
なお,このような区別が明確にできる場合でも,実際に計算された時間外・深夜割増賃金額が残業代に相当する部分の金額を超える場合は,差額を請求することができます。